静脈認証とは

ICカードで入退室を管理していても、入退室ログに残るのは「そのカードが通った」という事実だけです。カードの貸し借りや置き忘れがあれば、誰が実際に入ったのかは記録からは分かりません。静脈認証は体の内部にある静脈の形を読み取るため偽造されにくく、「本人が通った」を確かめる手段の有力な候補になります。

ただし、静脈認証は手のかざし方や設置環境の影響を受けるため、すべての扉に最適とは限りません。本記事では、静脈認証の仕組みと導入前の注意点を整理したうえで、扉ごとの重要度・通行人数・設置環境に応じた顔認証やICカードとの使い分け、導入前に決めておく取扱いルールと進め方を解説します。

カード認証で防げない不正

ICカードや暗証番号による入退室管理は、「カードを持っている人」「番号を知っている人」を通す仕組みです。そのため、カードの貸し借り、紛失したカードの拾得、暗証番号の共有があると、本人以外でも扉を通過できてしまいます。勤怠打刻を兼ねている場合は、他人のカードで打刻する「なりすまし打刻」も防げません。

生体認証は、本人の身体的な特徴で確認するため、貸し借りや紛失が起きません。入退室履歴には生体情報に基づく認証結果を紐づけられるため、カードだけの場合より利用者の特定に役立ちます。ただし、認証結果だけで実際の通過者を完全に証明できるわけではありません。生体認証の中で、体の内部の情報を使うのが静脈認証です。

静脈認証の仕組み

静脈認証は、静脈のパターンが人によって異なることを利用した生体認証です。読み取る部位によって装置の形や使い方が変わるため、仕組みと部位の違いを分けて確認します。

近赤外線で静脈の形を読み取る

静脈認証では、近赤外線が体内を透過する性質と、静脈中のヘモグロビンが近赤外線を吸収する性質を利用します。撮影部位に近赤外線を当てて静脈を撮影し、抽出したパターンをあらかじめ登録したパターンと照合して本人かどうかを判定します。

体の内部にある静脈パターンを使うため、偽造が極めて困難とされています。また、指静脈認証では、肌表面の水分や乾燥の影響を受けにくいとされています。

【参考】防犯設備 2016年新年号(一般社団法人日本防犯設備協会)「指静脈認証技術と最新指静脈認証入退室管理システム」

指静脈と手のひら静脈の違い

静脈認証で読み取る部位は、主に指と手のひらです。どちらも静脈を読み取る原理は同じですが、部位が違うため、装置の形や操作方法が異なります。

指静脈は、指が小さな部位であるため装置を小型化しやすく、指を置くだけで操作できるのが特徴です。手のひら静脈を選ぶ場合は、装置の大きさ、かざし方、装置に触れる必要があるかどうかを機器の仕様で確認し、設置場所に合うかを判断しましょう。

【参考】防犯設備 2016年新年号(一般社団法人日本防犯設備協会)「指静脈認証技術と最新指静脈認証入退室管理システム」

導入時の注意点

静脈認証は偽造に強い一方で、利用者の状態や運用によって認証が安定しないことがあります。導入後に慌てないよう、次の3点を事前に確認しておきましょう。

かざし方と環境で認証が揺れる

生体認証は、登録時と認証時で測定の条件が違うと、本人でも正しく照合できないことがあります。静脈認証では、手や指の位置・角度のずれや、照明などの外部環境が読み取りに影響するため、指置き台のように位置を固定する工夫が有効とされています。

導入時は、利用者に正しいかざし方を案内し、設置場所の照明や直射日光の有無を確認します。屋外や窓際に設置する場合は、その環境に対応した機器かどうかを仕様で確かめましょう。

【参考】防犯設備 2016年新年号(一般社団法人日本防犯設備協会)「指静脈認証技術と最新指静脈認証入退室管理システム」

全員が登録できるとは限らない

生体認証では、登録時の測定状態によっては生体情報を取得できず、登録できない人が出ることがあります。指静脈認証は登録できない人が少ない方式とされていますが、ゼロではありません。けがなどで一時的に指や手を使えない場面もあります。

そのため、ICカードや暗証番号など、生体認証が使えない人のための代替手段を最初から用意しておきましょう。代替手段の発行手続きと利用状況の記録方法まで決めておくと、例外対応が抜け道になるのを防げます。

【参考】防犯設備 2016年新年号(一般社団法人日本防犯設備協会)「指静脈認証技術と最新指静脈認証入退室管理システム」

漏えいしても変更できない

パスワードやICカードは漏えい・紛失しても変更や再発行ができますが、静脈の形そのものは作り直せません。万一登録データが漏えいすると、その影響が長く続く可能性があります。

導入時は、登録データを端末とサーバーのどこに保管するか、暗号化されているか、退職者のデータをいつ削除するかを確認しておきましょう。

顔認証・ICカードとの選び方

入退室管理では、建物内のすべての扉を同じ方式にする必要はありません。扉ごとに求められる本人確認の強さや使われ方が違うため、次の3つの軸で静脈認証・顔認証・ICカードを使い分けるのが現実的です。

項目静脈認証顔認証ICカード
貸し借り・なりすましカードの貸し借りを抑制できるカードの貸し借りを抑制できる(写真・動画などへの対策は機器の仕様で確認)防げない
操作指を置く、または手をかざす端末の前に立つカードをかざす
携行物不要不要カードが必要

守るエリアの重要度で決める

まず、その扉の先にあるものを基準に決めます。サーバー室、薬品・現金の保管庫、開発エリアなど、立ち入りを本人に限定しなければならない扉には、貸し借りによる不正を抑制できる生体認証を選びます。社員であれば誰が通ってもよい共用部では、ICカードやQRコードでも目的を満たせます。

通行人数と手ぶらの必要性で決める

次に、その扉を通る人の数と状況を確認します。始業時に人が集中する入口や、台車・荷物で両手がふさがりやすい通路では、端末の前に立つだけで認証できる顔認証が向きます。静脈認証は手を出す動作が必要なため、通行が比較的少なく、確実性を優先したい扉に向いています。

設置場所の環境で決める

最後に、設置環境を確認します。屋外や半屋外は、防塵・防水性能と外光への対応を仕様で確かめる必要があります。食品工場など衛生管理のためにカードを持ち込みにくい現場では、携行物が不要な生体認証が運用面で有利になります。

【参考】防犯設備 2016年新年号(一般社団法人日本防犯設備協会)「指静脈認証技術と最新指静脈認証入退室管理システム」

これらを組み合わせると、エントランスは顔認証、サーバー室は静脈認証、共用部はICカードというように、扉ごとに方式を選ぶ構成になります。

生体情報の取扱いルール

どの生体認証を選んでも、登録するデータは個人情報として扱う必要があります。方式を決めたら、法律上の位置づけと社内ルールを確認しましょう。

個人情報保護法での位置づけ

個人情報保護法では、身体の特徴をコンピューターで扱えるように変換した符号のうち、特定の個人を識別できるものを「個人識別符号」と定めています。手のひらや指などの静脈の形状、顔の容貌、指紋はいずれもこれに含まれ、静脈認証や顔認証の登録データはそれだけで個人情報にあたります。

【参考】個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)の一部改正の新旧対照表」

2026年改正で確認したいこと

2026年7月に成立・公布された改正個人情報保護法では、顔特徴データ等について、取扱いに関する一定の事項の周知の義務化、利用停止等請求の要件緩和、オプトアウト制度による第三者提供の禁止が盛り込まれました。施行は原則として公布から2年以内とされています。

【参考】個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」

【参考】個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律案(概要)」

新しい規律の具体的な対象や手続は、今後の政令・規則・ガイドラインで定められます。顔認証を導入する場合は特に、対象範囲が確定した段階で周知内容や利用停止への対応手順を見直せるよう、担当部署を決めておくと安心です。

社内規程と利用者への説明

生体情報を登録する前に、利用目的、保管場所、保存期間、削除のタイミングを社内規程にまとめ、利用者へ説明します。生体認証を使いたくない人や登録できない人に代替手段を案内する手順も、同じ規程に入れておきましょう。

導入を進める手順

導入は、次の順番で進めます。

  1. 扉ごとに守るエリアの重要度・通行人数・設置環境を洗い出し、方式を決める

  2. 利用者の登録計画と、登録できない人・機器トラブル時の代替手段を用意する

  3. 生体情報の利用目的・保管・削除を社内規程にまとめ、利用者に説明する

  4. 既存の勤怠管理システムや入退室管理システムと連携する範囲を決める

  5. 運用開始後は入退室履歴を定期的に確認し、認証エラーが多い扉の設置条件を見直す

カードを使わない運用に切り替えると、カードの発行・貸与・回収・紛失対応といった管理業務を減らせます。入退室履歴が「本人が通った」記録になるため、勤怠管理や不正調査にも使いやすくなります。

まとめ

静脈認証は、体内の静脈パターンを近赤外線で読み取るため偽造が比較的難しいとされ、立ち入りを本人に限定したい扉に向く認証方式です。一方で、かざし方や設置環境の影響を受け、登録できない人への代替手段も必要になります。入退室管理では、守るエリアの重要度、通行人数と手ぶらの必要性、設置環境の3つの軸で、静脈認証・顔認証・ICカードを扉ごとに使い分けましょう。あわせて生体情報の取扱いルールを先に決め、2026年の法改正による新たな規律の施行状況を継続的に確認しましょう。

静脈認証は偽造できないのですか?

偽造が極めて困難とされる方式ですが、絶対にできないとは言い切れません。重要な扉では、代替手段の発行手続きや入退室履歴の確認とあわせて運用しましょう。

指静脈と手のひら静脈はどちらを選ぶべきですか?

読み取りの原理は同じなので、装置の大きさや操作方法が設置場所に合うかで選びます。指静脈は装置を小型化しやすい方式です。手のひら静脈は、かざし方や接触の要否を機器の仕様で確認しましょう。

静脈認証だけで入退室を管理できますか?

扉によっては可能ですが、登録できない人や機器トラブルに備えて、ICカードや暗証番号などの代替手段は用意しておく必要があります。

静脈の登録データは個人情報にあたりますか?

あたります。静脈の形状をコンピューターで扱えるように変換した符号は個人識別符号とされ、それだけで個人情報になります。

顔・手のひら認証のFaceTen

飛天ジャパンの「FaceTen」は、顔認証と手のひら認証に対応した入退室管理ソリューションです。用途に合わせた方式を選べ、本人確認からドア解錠、入退室履歴の管理までを一元化できます。既存の勤怠管理システムや入退室管理システムとの連携にも対応しています。

【参考】飛天ジャパン株式会社「FaceTen」

扉ごとの認証方式の使い分けを検討している方は、資料やお問い合わせからご確認ください。

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